「津軽における酒呑みの考察」

青森の酒呑みもりちゃん著

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東北、特に青森におけるヨッパライの一考察

 白河以北山百文と呼ばれ、田舎者の代名詞である東北地方。その呑みっぷり、酒に関しての考察である。

 酒に関する考察
 俗に「米どころは酒どころ」と云われ、東北各県に日本酒のおいしい蔵がある。具体的にあげればきりがないためあえて行わないが、蔵の数だけであれば全国有数の酒どころとなる。また、各県で県民気性が異なるため嗜好する酒も異なるのも東北地方の特性である。県民一人あたりの日本酒消費量であれば秋田県が全国一多い。妥当な順位であるが、同じく日本酒消費量の多い青森県が、ウイスキー消費量第3位に入るなど嗜好が違うようである。また全般にビールの消費量も多いのが東北人の酒の傾向である。

 酒とヨッパライに関する考察(津軽)
 青森県民は旧津軽藩に居住する「津軽衆」(つがるしゅう)と旧南部藩に居住する「南部衆」(なんぶしゅう)に大別される。また下北地方も会津地方よりの移民が多いため独特の文化をもっているが、ここでは青森県民、特に津軽衆の酔いっぷりを考察する。

 俗に「津軽の三振り」といわれる気性を持つ津軽人、この三振りとは「いいふり・あるふり・おべだふり」・・・といい、標準語訳をすると「かっこいいふり・お金を持っているふり・知ったかぶり」となるのだが、これが災いして?、お金がなくても呑み屋に行き、なおかつ相手に「奢りたがる」悲しい習性を持つ。無論、お店が「つけ」を忘れるはずもなく、給料日に職場まで呑み代を請求に来ると云う光景が良く見られた。

 また、津軽の冬は長く厳しいため、年間に1人ないし2人は呑みに出かけ、ヨッパ らって路上で眠ってしまいそのまま凍死する憂き目に遭っている。また、路上で眠り、自動車に轢かれる事故が新聞紙上を賑わすことも珍しくない。しかしそこまでして呑みたい「津軽衆」であるため、春夏秋冬何かにつけて呑む。春になると「観桜会」(「かんおうかい」転じて「かごかい」と発音)と称する花見で朝から晩まで呑んでいる。無論飲み物も各種各様で、大学生のどんぶり一気「出身」から、ほのぼのと呑むお年寄りまで各々桜の名所から家の庭の桜の木の下、果ては学校の桜の下まで各地でシートを広げて呑んでいる。当然のことであるが、桜の名所、弘前市の弘前公園では夜10時以降になると毎年のように急性アルコール中毒で運ばれる輩が出没し、ある種の「風物詩」となっている。

 夏はねぶた祭りで呑むわけであるが、ねぶた祭りは踊るのではなく「跳ねる」もので、その踊る者を「跳ね人」(「はねと」と発音)、お囃子担当を「囃子人」(「はやしと」と発音)と呼ぶが、この跳ね人の正式な衣装には「ががしこ」と呼ばれる小型の柄杓のようなものをつけることとなっている。

 「ががしこ」や鈴を衣装につけることにより、跳ねた際に音を出すことを目的とするが、ねぶた運行中に運行責任者から振舞われる日本酒を呑むための柄杓としても「ががしこ」は使われる。ねぶた祭りは体力勝負の祭りで、跳ねて呑んで、また跳ねて呑んでの繰り返し・・・これで酔わないはずもなく、その昔は「けんかねぶた」と称した「けんか」が多発、地域によってはねぶた禁止令が出た町もあったという。

 秋は秋で収穫の際に出る「くず米」を使用した「どぶろく」(「だく」・若しくは「だく酒」)を製造する家庭もあるとかないとか・・・自然発酵の日本酒でしかも発酵をストップする、「火入れ」作業などを行わないため発酵が進みすぎると「酸っぱく」なる欠点がある。しかし考えたもので、この酸っぱくなった日本酒からアルコールだけを取り出した酒もあり、これを「粕取り」と云う。さすがに今では「かすとり」を呑んだという人物は少ないが、太平洋戦争後に呑まれた「かすとり」はこれを語源とするものと思われる。なおこの「どぶろく」アルコール度数が普通の日本酒より高く、3杯呑めば腰が抜ける・・・といわれている。実際に呑んで見たところ、本当に3合で腰が抜けた。

 また、冬は冬で寒いため中から暖めるため「ガソリンを入れる」と称して「日本酒」を呑む輩が多い。結局、年がら年中呑んでいるが、最近は不況のため外出を控える方が多く、昔ほど呑みに出かけて凍死なさる方が少なくなったようである。

 酒呑みに関する文章表現を見た場合、「呑むんだば、のれそれ呑む」(「呑むんだったら勢いつけて思いっきり呑む」:標準語訳)と云うほどであり、また「あどはだり」・・・もっと呑ませろと云う津軽弁等々酒に関する言葉には事欠かず、そして「ほんずを落として」(正気を失う)も歩くなりなんなりして自宅まで帰る。これが夏ならばいいが、冬であれば凍死するのもいたしかたないとも云える。

 いったん呑み出せば「のれそれ」呑んで、「ほんず落とす」まで呑む津軽衆。そのためか比較的飲酒をしても強い人間が多いようである。最も、若者には日本酒はあまり人気が高くなく、ねぶた祭りが日本酒洗礼の機会となっているようである。

 一般に東北人は「忍耐強く、温厚で口下手」と云われがちであるが、「津軽」と「秋田県北」地域はこの例に当てはまらず、どちらかといえば、「ラテン系」に近いノリで、さらに東北人特有の酒の勢いと云うことが発生、当然酒を呑んでのご乱心は日常茶飯事、駅の待合室でくだを巻くヨッパライが生息する北限とも思える。しかし、県民所得額の少なさからか未だに「出稼ぎ」文化も残っていることを考えると酒を呑んで荒れたくなるのも仕方ないと飲酒、特にヨッパライに関してはかなり寛容な地域とも言える。

 (付録)
 友人における酒豪の種別(鯨飲類のみ)
鯨飲類 日本酒1升以上常時呑める者
  不沈目 酔いつぶれない者
    @.理性科 飲酒してもまったく変化のない者
    A.騒乱科 にぎやかな者
    B.破壊科 破壊活動を行う者
    C.淫乱科 すけべになる者(他人には触らない)
    D.小姑科 説教上戸
    E.接触科 やたらと他人に触りたがる者(男女問わない)
    F.涙腺科 泣き上戸
  轟沈目 酔いつぶれる者・・・不沈目A〜Fと同科あり
    @.短決科 (短期決戦型)
一人で勝手に盛り上がって酔いつぶれる奴
    A.宿酔科 次の日反省する奴
    B.豚酔科 誰も知らないうちに寝ている奴
    C.喪失科 前日のことを10回中8回忘れている者
  酒乱目 轟沈目のうち他人に多大な迷惑をかける者?
若しくはうれしいことをする者。
    @.トラ科 友人、他の客とけんかをする者
    A.大トラ科 警察屋さんのご厄介になる者
    B.姫トラ科 女性のトラ科
    C.淫乱科 他人の××に触ったり、セクハラを行う者
若しくは脱ぎ始めるもの
    D.キス魔科 いきなり他人にキスするもの
    E.前後不覚科 酔いすぎて前後不覚となる者
    F.救急科 急性アルコール中毒を起こしたもの


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